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神楽坂雲如の妄想図書館

日々の妄想を書き綴った笑いと狂気のブログです。 妄想ですので本気にしないでください。

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富嶽はまだか

F重工の株主総会は粛々と進行していった。
まもなく閉会というときに、突然一人の老人が発言を求めた。
老人は枯れ草のようなまばらな白髪に、ほうきのような白いあごひげを生やし、鶴のように痩せて、顔には深いしわが刻まれている。
一見して90歳を超えているかと思われるたいへんな高齢だ。
すり切れた背広によれよれのシャツという、おそよ株主総会にはふさわしからぬみすぼらしい姿だが、壇上の経営陣の顔に緊張が走ったところをみると、案外大株主なのかもしれない。
老人は、震える手でマイクを握り、曲がった背筋をしゃんと伸ばし、雑木林を吹き抜ける空っ風のようなかすれた声で叫んだ。

「富嶽はまだか!まだ完成しないのか!」

会場にどよめきが起こった。
製品開発担当重役があわてて慇懃無礼に回答した。

「ご質問の趣旨を理解いたしかねます。
弊社には富嶽などという製品はございません。」

「なにをねぼけたことを!」
老人は叫んだ。
「あの幻の超重爆撃機富嶽じゃよ。
わしは若い頃、富嶽の開発にかかわったのじゃ。
あれから60有余年、いくらなんでも、もう完成しておるじゃろう。
わしは生きているうちに富嶽の雄姿を見たいのじゃ。
太平洋を飛び越えて米本土を爆撃する富嶽の雄姿を見るまでは、死んでも死にきれぬのじゃ。」

会場は騒然となった。

「富嶽ってなんだ?」

「戦時中に計画した秘密兵器じゃなかったかな。」

「なんで今頃そんな話を持ち出すんだ。」

「頭がおかしいんじゃないか?」

「静粛にお願いします!」
司会者が叫んだ。

経営陣は額を突き合わせて協議をはじめた。

「あの男が生きていたとは・・・」

「なにもこんなところであの話を持ち出さなくとも・・・」

「これは我が社の、いや我が国の存亡にかかわる重要機密だ。」

「あくまでシラを切るんだ。」

社長が登壇した。

「弊社には富嶽などという製品はありません。
 そのような製品を企画・開発している事実もありません。」

「うそをつけ!大株主をだます気か!」
老人は声を限りに叫んだ。

老人は屈強な数人の男に取り押さえられ、無理矢理会場から連れ出されていった。
その後、その老人の姿を見た者はいない。
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プロフィール

HN:
神楽坂雲如
性別:
男性

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